会長よりご挨拶 greeting of president

会長の言葉

日本関係学会会長 吉川晴美

みなさま、こんにちは。
2023年4月から2年間、会長を務めさせていただく吉川晴美です。
日本関係学会は1979年に設立され、2023年で44年になります。
これまで多くの方々による長年のたゆまない実践と研究の積み重ねから発展されてきた伝統ある学会です。
そして今、ここから新しく、皆様と共に未来を創ることをめざす学会です。
学会の詳細について、目的、沿革、年次大会、講座、研修会、学会研究誌等、本ホームページを是非ご高覧下さい。

「関係学」は、心理、教育、保育、福祉、看護、産業、生活といった広い分野で、様々な人により探究・展開・活用されてきました。理論と方法と実践が結びつき、今困っている人はもちろんのこと、すべての人々の様々な問題や課題、状況を事実に即して、関係という視点から明らかにし、未来志向的に解決していこうとする人間科学でもあります。

関係学って何だろうとあらためて考えてみると、日常のさまざまな何気ない一瞬一瞬に関わっているように思います。私の学生時代に経験した、関係学の創始者である松村康平先生(1917-2003)の「つぶやき」や「ふるまい」は、だいぶ後になってその深い意味に気づいたことが多々あります。例えば、問題に突き当たりひとりで考えこんでいるとき。「まずは一緒に歩いてみましょう」(今ここで新しく行動してみること)、「ひとりでは存在しえず、必ずまわりの人やものと関係しあっているのですよね」(人は関係的に存在しているということ)、「うーん、押してもだめなら引いてみたら・・」(自らかかわり方を変えてみること)、「宇宙から、いや飛行機からでも地球を見てみると世界観が変わります」(距離を変えて鳥瞰してみること)。50年以上も前でインターネット世界が普及されていないとき。「今に同時的な世界が当たり前になります」(時間と空間の状況的把握)など。そして「空気のボール」の心理劇。実際には見えない想像のボールの心理劇は「みんなで」となると少し恥ずかしい感じがするので私自身は敬遠気味でした。しかし現場で、身体的に援助が必要な幼児のグループで「空気のボール」を応用して「空気の雪」が降ってきたことにしたとき、またコロナ禍でマスクとプラスチックの防護版に隔てられた新入大学生たちと空気のボールのキャッチボールを行ったとき、歓喜の渦のようにひとりひとりのつながりと共有体験が生まれたと体感し、松村先生の考案されたこの方法の意味があらためて強く感じられた瞬間でした。

関係学と心理劇は車の両輪のように展開してきたといえます。その原点として、松村先生により1960年「適応と変革―対人関係の心理と論理」(誠信書房)、1961年「心理劇―対人関係の変革」(誠信書房)が続けて出版され、関係学、心理劇の理論や方法の輪郭が世に明らかにされています。

関係学の理論、方法、実践は、持続可能な人間科学として学際的研究も可能とします。
自分も人も物(環境)も、その多様性、独自性(違い)が尊重され、共にかかわり育ちあう、平和の状況づくりに貢献するものと考えます。
私たちは今、コロナ禍、戦争や紛争、環境破壊、暴力、いじめや虐待、貧困、格差や差別など、様々な困難があるなかで生きています。これらの問題解決についても、また仕事や生活のなかで、前向きな新たな歩みとなっていくことを願っております。 2023年 紫陽花の咲く頃にて

歴代会長

初代会長1979年6月〜松村康平(お茶の水女子大学)
2代会長2000年4月〜黒田淑子(お茶の水女子大学)
3代会長2002年4月〜畠中徳子(立教女学院短期大学)
4代会長2004年4月〜武藤安子(横浜国立大学)
5代会長2006年4月〜吉川晴美(東京家政学院大学)
6代会長2009年4月〜春原由紀(武蔵野大学)
7代会長2011年4月〜土屋明美(東京薬科大学)
8代会長2013年4月〜田中佑子(諏訪東京理科大学)
9代会長2015年4月〜水流恵子(原宿カウンセリングセンター)
10代会長2017年4月〜矢吹芙美子(東京福祉大学)
11代会長2019年4月〜小里國恵(日本心理劇協会)
12代会長2021年4月〜宮川萬寿美(小田原短期大学)